1.旅立ち-4
「かったるー…」
授業中、誰にも聞こえないような小さな声でつぶやいた、私、藤川美亜。
数学の授業中なんで、とりあえずノートはとってある。けど、先生の話の長いこと。それに加えて、真夏に、冷房もないのにほとんどの窓を閉めるのもないと思うが、それを言うと、昼休みから放課後にかけて長ーい長ーい、説教が待ってるらしいので障らぬ神にたたり無し。ということで言わないでおく。
「えーここのxはー…であって…そもそも――…」
いいかげんにやめてほしい。あまりに単調だから、理解すら難しい。そんな授業をしておきながら、自分は数少ない扇風機を強にして使ってやがる。私は金払ってここに来てるんだけど。授業料返せ。
そんなことを考えてると、突然、数学教師の頭から、黒い物体が飛び出し、数少ない開いていた窓から飛び立っていった。
(先生の頭のツバメも、そろそろ巣立ちかぁーって…あれ?)
フリーズ。
美亜の脳中を、とてつもない早さでぐるぐると、いろいろな感情がうずまく。
(あれ? 今の何? 先生って頭で鳥飼ってたんだー…ってそれはありえないしじゃあいまのはいったい? っていうかあの数学教師今何才だよ)
そして、たっぷり30秒思考回路が停止した。そして、
「「「「「うっそぉぉぉぉぉぉぉ!!!??」」」」」
クラス中全員の声が揃う。そしてクラス中一気に笑い声で一杯になる。
そしてさっきの黒い物体は、数学教師のヅラ。今年御年48歳のこの教師は可愛そうなことに、自分の頭の状態に気付いていなく、全員に、
「ほらァー授業続けるぞおー」
と言っている。それがうるささをよりあおっていることに気がつかず。
「あははははは……くっくっくっくっ……」
笑いすぎでそろそろ腹が痛くなってきた美亜の隣の生徒が、笑いをこらえながらも、(勇者!(笑))
「…くっくっくくくっ……先生、くくくっ…か、髪の毛…くっくく…なんですけど…くくく」
と、クラスのざわめきの理由を先生に告げた。
言われた数学教師の方は、あわてて自分の頭に手をやり、
「うっそぉおぉおぉぉぉぉ!!!!」
「あっはっはっはっはっはっは……」
まったくもって悪循環だ。
ようやく笑いがおさまってきてまたたいくつになってきた。足をブラブラさせながら、とりあえずノートを取っていく。数学教師は、何を考えたのか出席簿をかぶって授業をつづけている。かなり静かになってきているのは、数学教師が言った、
「これから少しでもさわいだ奴は数学のドリル毎日10ページやって提出しろ」
という一言でだ。全員が教師の頭を見ないように一心不乱に黒板をうつしつつ教師から目を反らしている。時たまこらえ切れなかった哀れな人達が数学の教科書でひっぱたかれる
バシーン
という音が聞こえる。
美亜は、それらの物を、ぼーっと見ていたが、それもだんだんおさまってきて、ほとんどいつも通りの授業風景に戻った…かのように見えた。
…ーン・・
突然何かの音が、どこからともなく聞こえてきた。
(? 耳鳴りかな?)
美亜はそう思ってまた黒板の字を写し始めた。
キー…ン・・
(まただ。水道でも使ってるのかな?)
しかしこんどは前より大きく。
ノートはだいたい取り終っていたので美亜は、シャーペンを置き、さっきの音に耳をそば立てた。
しかし、なかなか鳴る気配がない。数学教師は自慢の余談の最中だったので、美亜は頬杖をついて話を聞き流した。
音のことを忘れかけたころ、突然もう1度音が鳴った。
リィ――ン
しかし、さっきよりもかなり大きく、はっきりとした音。
その瞬間、美亜が使っていた椅子と机の感覚がなくなり、前のめりに倒れた。
が、そこに地面はなく、美亜は深い暗闇の世界へと落ちていった――――