3.異世界-1
日の翳り始めた森の中。
此の土地に帰り着いた少女が一人。
その少女は、月光を浴びて銀色に輝く、
黒い毛並みを持つ小さな獣だった。
「久しぶり」
少女は世界へ語りかける。
自分の生まれた、其の世界へ――
「どうしよう」
「どうしよう?」
「どうするの?」
「どうなの?」
「「「「「…………」」」」」
晴れ渡った空の下、意識の戻らない周を囲んで、五人は話し合う。しかし。
「……どうしよう?」
「どうしましょう?」
「どうすんだ?」
「どうするの?」
「どうするって……」
「「「「「…………」」」」」
全く持って話が進まない。その状況に美亜は空を見上げ、溜め息をついた。
「「どうしよう……」」
双子がチラリ、と視線を交わす。
相変わらずの瀬奈は、
「……空がきれいですねー……」
「どうせ……どうせ俺なんか……」
微妙にヘコむ匠のことは、四人とも相手にしていないようだが。
そんな中、周が。
「……ん…んあ……?」
「「「あ」」」
目を覚ました周に、三人がガバッと向き直り、
「……あれ?!!」
一足遅れて匠が近寄――
「てめえふざけんじゃねえ!!!」
「ひぎゃあ!!」
「何で僕がこんな目に!!!」
ろうとしたが、その瞬間ガバッと周に掴みかかられた上にまくし立てられ、――ハッキリ言って腰が引けている。
「僕に対して嘘をついたよな! お前!!」
「……い、いや本当だったんだって俺の時」
「じゃあこれはどういうことなんだよ!!?」
「わ、わかんないって」
「わかんないですむかよ下手したら死んでたかもしれないんだぞ!!!?」
(またこんな喧嘩を止めなきゃいけないのか……)
どうしようもない二人を見て、美亜は思った。そして、
「……なんて言うんだろこういうの」
「…………」
「無様、っていうのかな」
「それは……言いすぎだと思うよ、麻耶?」
密かに白い目線と苦笑を周と匠に向ける双子。
「あの……あの……ちょっと……喧嘩はやめてください! 周さんも匠さんも! いったい何があったんですか!?」
……この状態に何があったもないと思うが。
「だから何で僕が!! お前の嘘のために、こんな目に遭わなくちゃいけないんだ!!! だいたい僕は名門中の名門といわれる学校に通ってるんだぞ!! その僕に逆らうとはどういうことだ!?」
「逆らってなんか……」
自分が一番!! な態度を取り始める周と、その剣幕に圧倒される匠。
そして、その二人を少し離れたところから見ていた麻耶が、
「……馬鹿」
と一言。それに、当然のように周が反応した。
「な……おい今僕に馬鹿って言ったな!?」
しかし、麻耶は周の方すら向かず、軽蔑した口調で、
「言ったけど? それが何?」
「……この僕に対してそんなこと言って良いと思ってるのか!?」
「別に」
目線すら全く合わさずに話す麻耶に周は、どうしようもなく腹が立った。しかし、何故か気おされてしまい、おもいきり怒鳴りつけることが出来なかった。
「……ぼ、僕はえらいんだぞ! ……」
「どこが。何において? 本当に偉いわけ?」
「…………」
とうとう何も言えなくなった周。そして、喧嘩が一段落ついたところで、
「さあさあ、そろそろ歩き始めないと。日がくれるよ。こんなところで野宿するのがいいって人はまさかいないだろ?」
呆れたような苦笑を浮かべる美亜がもっともな意見を言った。まさか反論する人は一人もいないので、その提案は賛決。
六人は出発した。